鮨鷹
苫小牧市錦町
注目若手鮨職人、SNSの評価も抜群の苫小牧では珍しい江戸前鮨
◉店主幼少期から、修業時代、独立まで
岩渕:本日は宜しくお願い致します!苫小牧出身、これまでの経歴やと「鮨鷹」のオープンについて教えていただけますか?
店主:私は元々、ずっとアイスホッケーを続けていました。美園小〜和光中〜駒澤〜東洋大学に進学しました。当時、プロアイスホッケー選手になることしか考えておらず、日光アイスバックスのトライアウトも受けましたが、実力不足で合格できませんでした。就活もしていなかったので、帰ってきて慌てて親のコネクションを使って就職したのが札幌にあるお米の工場だったんです。
そこでは4年間働き、仕事を通してお米を学びました。その後、父が元々お寿司屋さんだったこともあり、親孝行をしたいという想いからお寿司屋さんになることを決意し、小樽の「伊勢鮨」で修行させていただきました。
伊勢鮨は北海道ミシュランの一つ星を獲得しているお店で修行期間は1年ほど、その後は父の店で修行を続けました。伊勢鮨ではたくさんのことを学びましたが、一番の学びは人間力だったと思います。あとはやる気ですね。技術や包丁の扱いについては自然に身につくものだと思っていましたが、大切なのはやる気だと感じました。
私は現在36歳なんですが、同年代でもお寿司屋さんで独立・開業している方が多いんです。なので、今の若い世代でも、やる気さえあればいつでもお店を持つことができるということを伝えたいです。
また、当時のエピソードとして、私が誤って日本酒の十四代の新品を割ってしまったことがありました。親方には「何やってんだ!給料から差っ引くぞ!」と言われるぐらいの覚悟をして謝りました。
ですが、最初に親方に言大将松本悠希われたのが、「怪我してないか?」と。「怪我していません、すみません。給料から引いてください!」と言うと、「何を言ってんの。形あるものはいつか壊れるんだよ。そんなこと気にしなくていいから、すぐ片付けて普通の業務に戻りなさい」と言われたんです。
その時に、「親方みたいに心の大きい人じゃないと駄目なんだな」と感じました。それまではアイスホッケーをやっていたこともあり、とげとげしい面も多く、誰にも負けたくないという気持ちばかり持っていました。ですが、親方、女将さんとの出会いで人に対する気持ちの面ですごく丸くなったと思います。
また、最近のことですが、父と親方と3人で話す機会があり、そのとき「最後の最後は心のあるやつが残る」という言葉を二人に言われました。この言葉は改めて初心に戻るきっかけとなりました。
父のお店に戻ってからは約8年から9年ほど働きました。父のお店は苫小牧という地域柄、寿司屋さんというよりは寿司居酒屋に近く、そのため天ぷらや揚げ物など、さまざまなことにチャレンジする機会があり、その経験は自分にとって貴重なものになりました。
独立は約3年前の10月で、本来ならば10月8日にオープンさせる予定でした。鮨鷹という名前は亡くなった兄の名前から取り、兄の誕生日は10月8日だったので、誕生日の日にオープンさせたかったんですけど、工事の鮨鷹苫小牧市錦町注目若手鮨職人、SNSの評価も抜群の苫小牧では珍しい江戸前鮨苫小牧生まれ、苫小牧育ち、幼少期から大学までアイスホッケーに打込み、トップリーグ目指すが、父の影響を受けて鮨職人に。
小樽の名店(ミシュランひとつ星)や実家での修行を経て、コロナ禍にて苫小牧では珍しい江戸前寿司として独立・開業する業界注目の若手鮨職人。店主幼少期から︑修業時代︑独立までこだわりのシャリについて雲丹の冷製茶碗蒸し自家製あん肝自家製ガリとマグロについて都合で10月31日になりました。
独立の背景にはコロナの影響があり、以前は父と弟と一緒に働いていましたが、コロナの影響でお客様が減少し、給料が見込めなくなったことが大きな要因で、私も弟も結婚して家族もおり、父も一人で生活していく必要がありました。そのとき緊急事態宣言が出され約1ヶ月お店を閉じ、私は父、弟とも会わず、それぞれが今後について考え、後に話し合う場を設けました。
結果としては、私は父の下を離れ自立をすることで父の重荷を減らすことにし、弟は父の下で一人前になる修行をするという方針になりました。独立した際は「父との関係が悪くなったのでは?」と言われたこともありましたが、実際は仲良しでアドバイスも受ける仲です。笑
時期がまん延防止期間ということもあり、1日数組限定として再スタートし、嬉しいことに、ご予約をするお客様も増え、今のスタイルが定着しました。
◉こだわりのシャリについて
シャリに使用しているお米は、厚真町の個人農家の方が育てた「ななつぼし」を使っています。独立当初はシャリへのこだわりがそこまで強くなく、同じ農家の方の「おぼろづき」を使用していました。
おぼろづきも美味しいお米でしたが、少しずつこだわりを持つようになり、シャリに適したお米に変更し、そこで見つけたのがななつぼしです。
いくつか別のお米や別の地域のななつぼしも試しましたが、うちで使っているお酢に一番合ったのが厚真町のななつぼしでした。お酢には京都の「富士酢」という飯尾醸造さんのものを使用しています。
こちらは複数種類の富士酢を組み合わせた、独自の酢となっており、現在は塩辛過ぎず、甘過ぎないシャリに仕上げています。理由はネタを引き立たせるために、シャリに仕事をさせたいからです。
美味しいシャリができたところにネタを合わせるというのがうちのお寿司屋さんのスタイルです。また、シャリを切る際も、温かいお米に温かい酢を使用し、温かいものと冷たいものを組み合わせると馴染まないためです。
また私はうちわを使わずにシャリを切っています。理由は、私はどちらかというと硬めにお米を炊き上げるためです。様子を見ながらシャリを切り、お酢を馴染ませていきます。
◉雲丹の冷製茶碗蒸しと自家製あん肝
「雲丹の冷製茶碗蒸し」ですが、この料理は、小樽、積丹、古平、三国などの地域で採れた時に、冷製の茶碗蒸しとして仕上げます。これは、私が以前修行した小樽の店での経験から生まれたもので、夏の暑い季節にぴったりな一品です。
特徴としては蒸す直前の卵液に雲丹を加え、その際に生の雲丹を使用しているので、卵液と共にちょうど良く蒸し上がります。茶碗蒸しの中に入っている雲丹と、上に乗せた生の雲丹との風味の違いを楽しんでいただきたいと思います。
続いて「自家製あん肝」です。甘辛く炊いた風味豊かな一品です。一般的に、あん肝は蒸して切り、ポン酢やもみじおろし、ネギといった具材と共にいただくことがありますが、私は少し異なるアプローチを取っています。
他の店との差別化を図るために、様々な調理法を模索しました。その中で見つけたのが、甘辛く炊いたあん肝と奈良漬けの細切り、本わさびを添える組み合わせです。甘めのあん肝と本わさびを組み合わせることで、お互いの味わいを引き立て合い、日本酒との相性も抜群な一品となりました。
◉旨味ホッキ貝とこだわり羅臼産ブリ
苫小牧のホッキ貝は美味しいですが、私的に道東のホッキ貝も美味しいので以前は道東のものを使用していました。最近、苫小牧のホッキ貝でも美味しくできないかと考え、赤貝と同じ仕込みを試してみました。するとホッキ貝の臭みが消え、生ならではの触感であるゴリゴリ感も程よく抑えられました。
このゴリゴリ感があると、シャリと喧嘩してしまうのですが、赤貝の仕込みを取り入れることで、シャリとのバランスが絶妙なホッキ貝となりました。
岩渕:なるほど。仕込みでシャリとの相性が変わるのですね。壺に入れて保管しているとのことですが、どのような工程なんでしょうか?
店主:壺の中には、ホッキ貝を剥く際に出る活き汁が入れられています。これにホッキ貝を漬け込むことで、臭みがなくなり、旨味の塊に仕上がります。また、包丁で切り込みを入れることで、噛むたびに甘みが広がるようになっています。咀嚼がしやすいように、包丁を入れる工夫も加えています。
岩渕:なるほど、工夫されているのですね。
店主:そうなんです。また、今日は羅臼のブリを仕入れました。羅臼のブリはとても美味しいので何度か使用しています。個人的なお話にはなるのですが、以前、札幌にあるお寿司屋さんに食べに行った際、ブリのおまかせの握りが出てきたんです。食べてみるととても美味しく、「これは絶対羅臼のブリだ」と思いました。
実際にお店の大将に伺うと、やはりそれは羅臼のブリで間違いありませんでした。私はこのブリが大好きなんですよね。
岩渕:羅臼のブリだと分かるほど、美味しさがあるのですね。
店主:味の違いがありますね。今は旬になりたてなので、脂の乗りはそこそこですが、すごく酸味が効いていて美味しいです。
◉醤油にもこだわっています
お醤油は煮切り醤油を使用しています。醤油の強い香りや、塩気をまろやかにし、素材の味を活かすために使っています
◉名物蒸しホタテの握り
最近、当店の名物となってきたのが「蒸しホタテの握り」です。ホタテは生の状態で食べる美味しさは言うまでもありません。美味しい回転寿司店でも手軽に味わえるものでもあります。
そこで私は、寿司職人として、お客様に特別な一皿を提供したいと考え、蒸しホタテの握りという一品を作りました。お醤油やお塩を一切使わず、ホタテ自体に含まれる水分だけで蒸し上げました。
岩渕:なるほど。蒸した後にはどのような工夫がなされているのでしょうか?
店主:ホタテの繊維質という特徴を活かし、ほぐします。そこで使うのが大葉です。手の中でホタテと大葉を一緒にすることで、大葉はホタテから出る水分を吸収する役割を果たし、より一層の風味を引き立ててくれます。
もちろん、お塩で味わうのも美味しいですが、職人としての工夫によってさらなる美味しさを引き出すことは、私の楽しみです。
岩渕:職人の技が光る一品ですね。ありがとうございました。
◉かんぴょう巻きと海苔へのこだわり
かんぴょうについては、栃木県の漂白されたかんぴょうを使用しています。ただ、最近は無漂白のかんぴょうを探していて、仕入れることができたら、もう一段階かんぴょうの研究を進められると考えています。
味付けに関しては、昔ながらのお寿司屋さんの味付けをしています。海苔巻きは、ネタが全体の7割を占めると言われています。ネタがあまり目立たないと、ただの塩おにぎりを食べているような印象になってしまうこともあります。
そのため、私の海苔巻きにはお客様がびっくりするくらい、ネタが贅沢に盛り込まれています。これは、鉄火巻きやかっぱ巻きも同じですね。海苔も佐賀県の有明の海苔を使用しています。
海苔にはさまざまな種類が存在しますが、私は10種類程の海苔を試食した中から、香りや風味が最も良かったものを選びました。選んだ海苔は価格帯的には中程度のものでしたが、価格だけでなく、品質や味にこだわって選ぶことが重要だと感じています。お店に足を運んでいただいた際には、ぜひその美味しさを楽しんでいただきたいです
◉女将特製「チーズケーキ」こだわりワイン「ヴァンナチュール」
岩渕:デザートについて紹介をお願いします。
店主:以前は私がデザートを作っていたんですが、仕込みが忙しいのを察してくれた奥さんが「私が作りますよ」と言ってくれました。そこから「女将特製のチーズケーキ」の提供が始まりました。
甘さ控えめに仕上げていて、最後に「もう一杯お酒ちょうだい」と言っていただけるような美味しいデザートです。
岩渕:なるほど。ワインについても教えていただけますか?
店主:「ヴァンナチュール」という、亜硫酸が極めて少ないワインの種類をいくつか用意しています。これらは主にフランス、オーストリア、イタリアなどで作られた、自然派のワインです。最近では「ヴァンナチュール」が全国的に広がってきており、人気を集めています。
苫小牧でも数軒の店舗で提供されていますね。このワインを求めてご来店くださるお客様もいらっしゃいます。昨年はそのワインを楽しみにしてくださったお客様が二晩連続でご来店くださり、今年も再びお越しになりました。
また、日本酒も自然派のものを揃えています。お寿司と共にお酒もお楽しみいただければと思います。
・インタビュー
松本悠希
苫小牧生まれ、苫小牧育ち、幼少期から大学までアイスホッケーに打込み、トップリーグ目指すが、父の影響を受けて鮨職人に。
小樽の名店(ミシュランひとつ星)や実家での修行を経て、コロナ禍にて苫小牧では珍しい江戸前寿司として独立・開業する業界注目の若手鮨職人。
・店舗情報
鮨鷹(すしたか)
〒 北海道苫小牧市錦町2-3-7
TEL 070-4487-1936(御予約は電話のみ)